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【インタビュー】フィクションだからこそ可能な驚きの結末が一冊に 『作者不詳』発売記念 三津田信三インタビュー

本格ミステリ×民俗学ホラーの名手・三津田信三。その作家デビュー25周年を記念して、デビュー二作目となる『作者不詳 ミステリ作家の読む本』が、全面改稿し角川ホラー文庫から発売されました! 今回は三津田作品の大きな特徴であるメタ小説について、また『作者不詳』をはじめとしたご自身の執筆活動についてお話を伺いました。
取材・文:門賀美央子

『作者不詳』発売記念 三津田信三インタビュー

25年前の衝撃作、再び

――作家デビュー25周年となる今年、デビュー二作目である『作者不詳』が全面改稿の上、決定版として2026年1月23日に出版されることになりました。

三津田: この作品はデビュー作『ホラー作家の棲む家』(文庫版は『忌館 ホラー作家の棲む家』と改題)の次に出したものですが、作品世界の時系列では本書が先になります。これまでの経緯を説明すると、まず講談社ノベルスから刊行され、次いで文庫化しています。そのとき大幅な改稿をしました。ノベルス版と文庫版では、全体の構成から結末まで、かなり違っています。今回はそれほどの改稿ではありませんが、作品の時系列に合わせる形で手を加えています。

――ということは、三津田さんの作品をこれから読もうとする読者にはうってつけということですね。

三津田: 上下巻にわたる長編だけど、実質は短編集みたいなものですから、なかなか取っつきやすいと思います。また拙作の特徴として、ホラーとミステリの融合がありますが、それを最初に意図して行なったのが、まさに本書と言えます。怖い雰囲気が大好きで、同時に謎解きがお好きなら、きっと楽しんでもらえるはずです。

デビュー前からメタ小説を志していた

――三津田作品のもうひとつの特徴は「メタ」の手法が多用されることです。小説での「メタ」とは、物語自体が自身を物語と認識している高次体として、本来物語が認識しないはずの作者の存在に触れたり、登場人物が読者に語りかけたり、実在人物を登場させることによって現実と虚構の境界を揺らす手法ですが、三津田さんは「メタ」のあらゆる方法論を作品に取り入れられています。

三津田: メタ小説は僕の出発点と言えそうです。というのもデビュー前、趣味で小説を書いていたときに「ホラー」と「ミステリ」と「怪談」という、三つの好きなジャンルをテーマにした作品を書けないかと、ずっと考えていたのが始まりだからです。その当時に考えたタイトルが、『怪奇小説に纏わる三つの物の語り』と『探偵小説に纏わる四人の物の語り』と『怪談小説に纏わる五冊の物の語り』でした。数字には特に意味がありませんけど、これが後の「幽霊屋敷」シリーズに影響を与えた風にも見えます。

――本作もその中の一つなのですか?

三津田: はい。最初の『怪奇小説に~』が『ホラー作家の棲む家』に、『探偵小説に~』が本作になり、『怪談小説に~』が『蛇棺葬』と『百蛇堂 怪談作家の語る話』の二冊になったわけです。いわゆる「作家三部作」ですね。

――最初からメタ志向の作家というのはちょっと珍しい気がします。

三津田: そもそも編集者の仕事をしながら趣味で執筆していたので、自分の嗜好が全面的に出てしまった気がします。ただ、デビュー作から二作目を出すまでの間に、色々と事情が変わって作家専業としてやっていく決意をしたのに、そのままメタ設定を引きずって「作家三部作」を書き続けたのは、どう考えても駄目でしょう。もっと普通の小説(笑)を書くべきでした。しかも講談社ノベルスというミステリ色の強いレーベルなのに、ホラー色を全面に出す始末ですからね。そのため当初は、ミステリ色の強い本書も書いているのに、完全にホラー作家だと認識されていたようです。今から振り返ると、もう少し別のやり方もあったのに、と反省しないでもないです。

――本作は編集者の三津田信三とその親友の飛鳥信一郎がたまたま手に入れた『迷宮草子』なる同人誌の呪いから逃れるため、『迷宮草子』の中に書かれた奇怪な事件の謎を解決していく、という枠組みになっています。全体としてはホラー調ではあるものの、作中作である『迷宮草子』内作品は本格ミステリですよね。

三津田: そうです。各章の作中作は高校時代や学生時代に書いた謎解きミステリの短編と、そのときに考えたアイデアがもとになっています。そういう意味でも本書は、僕の「青春の書」と言えるのかもしれません。

――今でこそホラーミステリはひとつのジャンルとして成り立つほどの作品数が出ていますが、三津田さんがデビューされた頃はさほど多くはなかったかと思います。そんな時期に「混ぜれば面白いんじゃないか」と発想されたのはひとつのエポックになったのではないでしょうか。

三津田:『ホラー作家の棲む家』もミステリ要素があるけれど、基本はホラーです。そもそも『怪奇小説に纏わる三つの物の語り』ですからね。本書のもとは『探偵小説に纏わる四人の物の語り』なので、本当は純粋なミステリ作品になるはずでした。でも、それだとミステリ短編集と変わらないなと、書き上げてから気づいたんです。一作ずつの謎解きはあるけれど、どうも単調だなと感じた。もっと全体のサスペンスを高めるためには、どうすれば良いのか。それを突き詰めた結果が、ホラー要素の投入に繋がりました。つまりミステリ版『作者不詳』をひとまず完成させてから、あとから今あるホラー要素をぶっ込んだわけです。

ホラーミステリ 絶対の掟とは

――近頃はモキュメンタリー(ドキュメンタリー調に架空の話を描く手法)を使ったメタ系ホラーが多いですが、三津田さんのメタ小説は一風異なります。あくまでもフィクションはフィクション。でも、だからこそできる驚きの結末が待っています。

三津田: 澤村伊智さんが文庫版『みみそぎ』と二次文庫版の本書の巻末解説で、「三津田信三はずっと繰り返し同じことを書いているけど、どれも同じになっていないのがすげえぇ!」という話を書いてくださいました。たぶん褒められているのだと思うのですが(笑)、拙作の分析と考察を実に鋭くされていて、さすがだなと感心しました。こういう作風の問題って、なかなか当人は気づけないものです。それほど意識しているわけでもありませんから。結局は好きなことを好きなように書いている。少なくとも僕はそうで、メタの新しい方法を考えてやろうとか意識していたら、ちょっと書けないかもしれません。

――逆に、すごく意識している部分はありますか?

三津田:「刀城とうじょう言耶げんや」シリーズでホラーとミステリの融合を試みようとしたとき、絶対に外してはいけない心構えは何か。これを真剣に考えた結果、まずミステリの読者を満足させないと意味がない、と悟ったんです。それまでにもホラーミステリめいた小説はありましたが、前者は伝奇に偏り過ぎて、後者は謎解きに不満を覚える。そういう作品が多かった。融合を成功させるためには、謎の提示と謎解きにおいて、高いレベルで読者を満足させる必要が絶対にある。そこさえしっかり押さえておけば、あとは逆に何をやってもいい(笑)。ミステリ部分さえきちんとしていれば、解決後に「いや、実は化け物がいたんですよ」みたいな展開にしても、「あ、そうなの」で終わる。なぜなら謎解きで充分に満足しているからです。そこは僕としては珍しく計算した部分ですし、それは正しかったと思います。ホラー部分は、僕自身が大好きなものだから、どう書いても怖いホラーになって、きっとホラー読者も満足してくれるでしょう。それにホラー読者はね、ミステリ読者よりも優しいから(笑)大丈夫なんです。

――今回、御自身の原点ともいえる作品が装いも新たに世に出たわけですが、四半世紀という年月への感慨はありますか?

三津田: ここ十年ほどの間に、拙作を読んで作家になりましたと言ってくれる作家さんのデビューや、中高生の頃に夢中で読んでいましたという編集者さんからの依頼が、かなり増えてきています。僕もそういう立場になったのかって、純粋にびっくりしています。ちょっと照れくさいけど、やっぱり嬉しいものです。

――作家冥利に尽きる、ということでしょうか。

三津田: あっ、まさにそうです。四半世紀も作家をやっていると、作家冥利に尽きることが本当に多くなるんです。そういう体験ができるのも、四半世紀のお陰でしょう。

――今後の予定についても教えてください。

三津田: 僕が編者を務めた『七人怪談』の文庫版が5月に、その第2弾となる『七人怪談 第二夜』が6月に、「怪民研」シリーズの新作長編『囁く逆婿』が7月に、怪奇短編集『「オール讀物」綺譚』が10月に刊行される予定です。また来年は、30年以上の歳月をかけた初の翻訳書が控えています。これはお付き合いのある編集者だけでなく、友人や家人や誰にも教えていない秘密の企画です。海外小説を読まない方にも、きっと楽しんでもらえると思います。